The moon and a shuttlecock


(2) ~*R18~


「よぉ。久しぶりだな。元気そうだ」
 すこしバツが悪そうに、窓の外でロックオンが笑っている。
 見られた。こんなところを。
 ハレルヤと、セックスしているところを。
 ハレルヤから悲鳴があがるのも、無理はない。
「え~と…入っても、いいか?」
「なんでだよ! 帰れ!!」
 咄嗟に頭までかぶったシーツの隙間から、動揺した金色の瞳がのぞく。
 いつも冷静で獰猛なハレルヤが、これまでになく肌を粟立たせている姿に、アレルヤも同じく動揺を隠せなかった。
「ハ、ハレルヤ、落ちついて。ロックオン、ちょっと待っててください」
 急いで身支度を整えようと、両腕と両足にちからをいれる。
 しかし、何度からだを離そうとしても、ハレルヤのからだが着いてきた。
「ちょ、ちょっと、ハレルヤ、痛いよ、絞めないで…!」
 抜こうとすればするほど、ハレルヤはきつく絞めあげてくる。
 アレルヤの息があがった。
「ハレルヤッ」
「オ、オレだって好きでやってんじゃねぇ…っ!」
「ぬけない…痛い、痛いよハレルヤッ」
「痛ぇッ! 動くなぁッ!!」
 こんなことは初めてだ。アレルヤもハレルヤも、どうしたら良いのか、さっぱりわからない。
 あまりに突然のことで、ハレルヤのなかが痙攣してしまったのだ。
 からだを離したくても、まるで真空になってしまったかのように吸いつかれて、身動きがとれない。
 ペニスを萎えさせたくても、血流がハレルヤのなかへと促され、それはさらに硬く大きくなる。
「ど、どうしよう、ハレルヤ」
「とにかく動くなッ、すんげぇ痛ぇんだよぉ…ッ!!」
 ハレルヤの涙まじりの切羽詰まった声に、アレルヤの目じりにも涙が滲んだ。
 肉体的な苦痛には慣れているはずのからだも、つながっている部位の強い痛みには、抗いかたも、逃がしかたも、知らないのだと実感した。
 シーツをめくり、お互いの顔を確認する。
「…ハレルヤ…」
「アレルヤぁ…」
 引き絞られるような痛みに、キスでなだめ合うことすらできない。
 窓の外で、なるべく見ないように視線をそらし気味にしていたロックオンも、状況が状況だけあって、声をかけずにはいられなくなった。
「あ~。え~と……──なんか、手伝う?」
 知った人間のセックスを見た経験はあるが、さすがに、同じ顔のオトコ同士、というのは、初めて出くわす光景だ。
 やはり、すこし照れる。
 一年ぶりに見る、ロックオンのやわらかい笑顔に、アレルヤは眉尻をさげた。
「すみません、ロックオン…手をかしてください…」
 瞬間、信じられないという顔をして、ハレルヤがシーツを払いのけ、アレルヤを見上げた。
「マジかよ、さわらせんなッ、アイツにっ」
「しかたがないよ、ハレルヤ、ぼくたちじゃ、どうしたらいいのか、わからないもの…ッ」
「窓、割るぞ?」
 ロックオンは、格子で仕切られた窓の1枚を、部屋の中にガラスが飛び散らないよう、銃床で丁寧に割ると、そこから左手を入れて、鍵を開けた。
「邪魔するよ」
 長く伸びた足が、軽々と窓枠をまたぐ。
 革靴が床板を鳴らして、ロックオンがベッドまで近づいてくると、ハレルヤはぎりりと歯を喰いしばり、飄々と笑顔を浮かべる白い顔を見上げた。
 両膝を大きく開き、ベッドに留めつけられているような格好のハレルヤは、男が見ても、ひどく扇情的だ。
「よぉ。大丈夫か?」
「こんのッお邪魔虫ッ!」
 痛みをこらえるために握りしめていた枕を、バスンと投げつける。
 それを軽く受け止めて、アレルヤの足元に適当に置くと、ロックオンは手袋をはずした。
 以前と変わらない、柔らかくなめした、黒い皮のグローブ。白くしなやかな、大きな手も、変わらない。
「まぁ、そう言うなって。すぐ楽にしてやるよ」
「すみません、ロックオン…ひさびさの再会が、こんなで…」
「はははっ、まぁ、確かになぁ」
 そんなに気にすんな、と言いたそうな表情で、ロックオンがアレルヤに笑いかける。
「男でもなるんだなぁ、こういうのって」
「さわんなッ!」
「はいはい」
 今にも噛みつきそうなハレルヤの口にタオルをあてて、ロックオンは声を低くする。
「噛むならこっち噛んでろ。マジでちょっと痛ぇからな。アレルヤはコイツの腕をおさえてろ」
 言われたとおりに、アレルヤはハレルヤの両手を握ってベッドに押さえつける。ハレルヤはアレルヤのすることには抵抗しなかったが、ロックオンをにらみつけたまま、口になかば押しこまれたタオルを、プッと脇へと吐き出した。
「男同士で、これでハズれるのかわかんねぇけど」
 ロックオンの両手が、ふたりの繋ぎめが隠されているシーツの下に、潜り込む。
 状態を確認した、すこしひんやりとした指先に、強く摘まれるかのような感触が背筋を走ったと思った瞬間──意識の外で、火花が散るような衝撃が性器を直撃した。



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