live


(4) ~R18~


 今まで生きてきて、常に絶えず、お互いが唯一の存在だった。
 お互いに、持っているものは食い違っていて、アレルヤはいつもとまどった。
 ハレルヤにあるのは、激しさと迷いのなさ。
 冷点を針で刺すような鋭さ、その冷たい痛み。
 ハレルヤには、引くなどという選択肢もないし、負けるなどという言葉もない。
 ハレルヤには、情け容赦というものがないのだ。
 でも、ハレルヤが、アレルヤを受け入れなかったことなど、一度もない。
 ハレルヤが揺らぐのは、いつもアレルヤに対してだけだ。
 ハレルヤが負けを認めるのは、いつもアレルヤを守るときだけだ。
 アレルヤになにかあるたび、ハレルヤは立ち止まり、その冷たく明晰な脳で考え、優しい答えを出してきた。
 最初は、気持ちの切り替えとか、気分の良し悪しとか、その程度でしか感じることができなかった、ハレルヤの存在。
 アレルヤが初めて、自分のなかに、把握できない存在がある、と気付かされたのは、すこし経ってからのことだ。
 初めて鏡を通してハレルヤと逢ったとき、アレルヤは、自分が怖くなった。
 どこか違う世界まで見えているような、その目つき。つり上がった口許。その攻撃性。
 口を開けば、思いやりのひと言もない。
 これが自分の分身。自分にもとからあった素質。
 自分はここまでどうしようもなかったんだ、と、そう思った。
 でも、考えるまでもない、自分はいつも最低のラインに立っていた。
 下などない。上を見上げるしかない、場所。
 自分に縋るような目をする同僚はいたが、立っている場所は同じだ。
 常に上から、顔の見えない大人たちにのぞきこまれ、押さえつけられ、機械が出した結果だけを見て、コイツはだめだと、首を横に振られる。
 そうして否定されればされるほど、ハレルヤはまるでそれを糧にするように、育っていたのだ。
 アレルヤと同等の、一個人としての存在を、他人が認めるほどに。
 自分はきっとこれから、自分では制御しきれないところで、たくさんの他人を犠牲にして、生きようとあがくのだろう。
 ハレルヤが言うように、他人の生き血をすすり、踏み捨てて。
 子供ながらに、そのとき、なんとなくそう感じた。
 でも本当は、他人の血ではない。アレルヤがハレルヤの血を吸っているのだ。
 ハレルヤはいつだって、アレルヤが喉や手に噛みつき、細々とではあるが、どうしようもなく血を吸い甘えるのを、目を細め、微笑んで、許してくれる。
 そうして汚れた口許さえ、ハレルヤは舐めとって、口では罵りながらも、かすかな音をたて、優しいキスをしてくれる。
 しょうがねぇよ。いいんだよ、お前はそれで。
 アレルヤの迷いや躊躇いはいつだって、ハレルヤの手を血に染めてきた。
 あさましい。
 他人の生き血をすするより、ずっとずっと、あさましい───


「あっ…あっ…あっ…」
「ハレルヤ…」
「…んぁっ……ん、ふ……」
 からだを密着させた格好で、アレルヤが奥を突く。
 おさえこまれて自由のきかないハレルヤは、ひっきりなしに声をあげ、アレルヤの肩や首筋に、熱い息を吐き続けた。
 この姿勢のまま、3回、たて続けにイかされた。
 それでも、アレルヤは突くことをやめない。
 最初にアレルヤが吐き出したものも手伝って、収縮した器官を太いペニスが音をたて、遠慮なくこすり続けている。
「ア、レル、ヤ」
「なぁに…っ?」
「水、飲ませろ」
「うん」
 お互い、喉がヒリついている。
 アレルヤの腰が引いた状態でとまり、ハレルヤをおさえこんでいた、たくましい右腕が、サイドボードにのびた。
 ミネラルウォーターのキャップを右手の親指だけで開封し、ハレルヤの口許に、そっとそそぐ。
「…ん、…ん、」
 おさえこまれたままで身動きがとれず、上を向いたまま口を閉じずにのどを鳴らして水を飲むハレルヤは、おどろくほどに無防備だ。
「もういい?」
「…あぁ。……うぁっ! あっ! この…っ!」
 一息つけたと思ったとたん、ふたたび激しく突かれて、ハレルヤの右手が宙をつかむ。
 飲みきれずに頬にこぼれた水を舌でぬぐい、ハレルヤの右手を自分の背にまわさせて、アレルヤはハレルヤが飲んだ水を奪うかのように、ハレルヤの口腔を舌でまさぐった。
「…甘い…」
 ハレルヤの甘さだ。
 イかせればイかせるほど、追いあげれば追いあげるほど、ハレルヤのからだは甘くなっていく。
「…! 息…ッ! んっ…ぅ…」
 窒息させるのかというほど、アレルヤは深く口をかさね、ハレルヤの舌を吸いあげる。
「あふッ…んっ、んっ!」
 お互いの、舌のひだとひだを絡ませる。甘くて、甘くて、たまらない。
 アレルヤは鞭を入れられたように、腰をはげしく動かしはじめた。
「ひっ…!」
 気管がはげしく鳴る音が、ハレルヤの喉の奥から聞こえて、それさえも吸いとる勢いで、アレルヤが口腔を長い舌で占領する。


「なぁ…」
「うん?」
「…まだ、ヤるか?」
「うん、ぼくはしたいけど…」
「じゃあ、なか、掻きだせ。いっぱいで、つれぇ…」
「うん」
 すこしやわらかくなったペニスを抜くと、待っていたかのように、大量の精液が音をたてて流れだした。
 アレルヤのからだが離れたとたん、ハレルヤの腰ががくがくと震えだす。
「…くっそ…。足が…閉じねぇ…」
「すごい…丸見えだよ、ハレルヤ…」
 長い時間アレルヤをくわえ続けていたそこは、紅くはれて、中途半端に閉じかけ、本来のかたちを忘れてしまったかのようだ。
 自分の濡れてまだ先から残りを滴らせるそれはそのままに、アレルヤは、ハレルヤのなかにゆっくりと指を差し入れる。
「…あ! ばかやろっ、何本っ…入れた!?」
「…え? 3本」
「アホッ! 多すぎだろがっ」
「だって、今までいっぱいぼくのでしてたんだよ?」
「直径、比べてみろって…っ!」
 アレルヤは、ハレルヤに沈ませた右手はそのままに、空いた左手を使って、自分のペニスの太さと見比べる。
「なっ…! おい、入れてるの抜いてからに──」
「確かに、ちょっと指3本のほうが太いかな」
「ちょっと、じゃねぇ、直径だ、直径考えろ…!」
「もう…ハレルヤ」
 ムードもなにもない。
「ほんと、かわいい口なんだから──」
「んあッ!」
 根元まで差し込んだ指を3本とも曲げると、ハレルヤのからだがちいさく跳ねた。
 そのまま、指の腹で、内壁をなでまわし、精液を外にだす。
 指がぐるりと一周するたびに、ひくっという声がもれた。
「感じる?」
 シーツを握りしめ、ハレルヤはたまらず、からだを引き攣らせる。
「…んっ…んっ…」
 噛みしめた唇の端からは、ツゥ、と唾液がこぼれおちて、ハレルヤの耳のうしろの髪を濡らした。
「……かわいい」
 前立腺を、アレルヤの指先がやさしくつつく。
「…あ、そこ…!」
「ここ?」
 おもしろいくらいに正直に収縮するそこを、しつこくしつこく指の腹で小刻みにこすってやると、ハレルヤの腰がかくんと持ちあがった。
「…も、いい! 抜け!」
「まだ全部かきだせてないよ」
「やべぇって…! アレルヤ…! あ、あぁん!」
 アレルヤの指先の動きにあわせて大きくなっていたハレルヤのペニスが、ひくんっと震える。
 咄嗟にアレルヤが口に含むと、ハレルヤは耐えきれずに吐精した。
 舌の上にだされた水っぽい精液を、アレルヤがゆっくりと嚥下する。あじわうかのように。
「…ふ、…ふ、」
 アレルヤの指を絞めつけて、胸元を上下させながら、ハレルヤが頭だけ起こすと、アレルヤがちゅっと音をたてて鈴口から残りを吸い出すところだった。
「…も、かきだすだけじゃ、ねぇのかよ…っ」
「ハレルヤ、イッちゃったね」
「お前のせいだろが…!」
「ぼくはなにもしてないよ」
 しれっと微笑むアレルヤに、ハレルヤはからだをどっとベッドに沈ませる。
「ハレルヤ…?」
「…すこし休ませろ」
「うん」
 ハレルヤのからだが緩むのを待って、指を抜く。
 ねばついた白い糸がひいて、アレルヤはすこし眉を顰めた。
 あまり長いこと、濃い精液をハレルヤのなかに入れておきたくない。器官が荒れてしまう。
「ねぇ、一度シャワーを浴びよう。なか、まだ奥にたまってるみたい」
「無理、腰にちからが入んねぇ」
「じゃあ、ぼくが連れてってあげるから」
「んー…」
 だるそうに、ハレルヤが右腕をあげて、アレルヤの肩にまわす。
 アレルヤは、ハレルヤの左腕も自分の肩に乗せると、ハレルヤの両膝の裏に片腕をくぐらせ、ハレルヤをひょいと抱きあげた。
「…!? っておい、これかよ!」
「いいでしょ?」
「オレは姫じゃねぇ!」
「知ってるよ」
「おーろーせ!」
 からだを捩ってみたものの、アレルヤに抱かれて運ばれるのは、心地よい。
「あれ? もう暴れないの?」
「…さっさと運べ!」
「うん」
 アレルヤは嬉しそうだ。
 洗面所の鏡に写ったさまは、だが、やはり異様だった。



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