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(3) ~R18~


 こらえるような息遣いが、徐々に、徐々に、甘い吐息に変わっていく。
 普段のハレルヤの言動からは、到底想像がつかない、色気。
 まわりの空気までが熱をもち、色を変える。
「大丈夫…?」
 アレルヤは、ハレルヤの首筋にキスをおとし、ハレルヤの耳のうしろの甘い匂いを吸いながら、すこしだけ強く、ハレルヤを突き始める。
「…あ…っ、は…ぁ、」
 ハレルヤの声があがった途端に、ギュッとするどい痛みが背中に走り、アレルヤはふと我に返った。
「そうか、ハレルヤのつめ、切り忘れてた…」
「…あ? んだよ、こんな状態で…っ」
 ハレルヤは、もう、抜かれたくない、という顔だ。
 色味のなかった頬に、ほんのりと血の気が戻ってきていた。
「…今抜いたら、もう入んねぇぜ」
 強がるかのようなハレルヤが、かわいくて仕方がない。
「…いいよ、好きなだけ引っ掻いて。それも気持ちいいから」
「ったくお前は……サドなんだかマゾなんだか、相変わらずわかんねぇ」
 アレルヤが、微笑んで目じりを下げる。
「ぼくは、たぶん、両方だよ」
「そうだな」
「ハレルヤがちょっとマゾなのも、知ってるよ」
「なんだそりゃ」
 ガリッという音をたてて、背中の皮をつめの幅だけめくられて、アレルヤの肩甲骨がすくんだ。
「も…! むだに引っ掻くのはやめてよ、ハレルヤ」
「好きなだけ引っ掻けっつったろ」
「そうじゃないよ。ココで感じてるとき、引っ掻いて」
 ほら、ココのことだよ、と言いたげに、アレルヤが腰をまわす。
 良いところを掠められ、ハレルヤの肩がひくっと震えた。
「ッ! くっそぅ……。こうか?」
「痛い! またわざと引っ掻いて、…!」
「てめぇが変なこと、言うからだ」
「もう…ほんとに意地っ張りなんだから、ハレルヤは」
 それでもいい。こうしていられるなら。
 ハレルヤとかわいい言い合いをする、幸せな時間を持つことができるなら。


 誰にも知られることなく、必死に自分と戦った、静かな、半年という時間。
 薄暗い場所で、昼も夜も関係なくハレルヤの看病をし、ハレルヤの名前を呼び、すごした。
 そこからは太陽はあまりにも高く、どんなに手をのばしても、ふたりに光が届くことはなかった。
 ハレルヤが意識をとり戻し、その瞳にアレルヤの姿を映し、アレルヤの名前を呼んだときの、喜びは忘れられない。
 ハレルヤの反応が消えていたのは2週間ほどのことだったが、その間にあじわった孤独は、アレルヤにとっては、それは凄まじいものだったのだ。
 同じ器にいるはずなのに、見えないくらいに遠くなってしまった、ハレルヤの魂。
 何度も手をのばし、手をのばし、つかんで引き寄せようとした。狂うかと思った。
 自分があんな痛みを感じる心を持っていただなんて、思ってもみなかった。
 ハレルヤがだんだんとからだを動かせるようになり、アレルヤが口うつしで水を飲ませるときにそっと唇にふれた舌に、ハレルヤのすこし乾いた舌がちいさく絡みついてきたとき、アレルヤはその場で泣きじゃくった。
 今でも、ハレルヤは、昼間はうとうとと半分寝ていることが多い。たまに起きたかと思っても、またすこしすると、寝息をたて始める。
 アレルヤを強制的に押しやるだけのちからは、まだ回復していないのだ。


「アレルヤ…! もっと、強く…!」
「強く…?」
「奥!!」
 開けっ放しの唇の隙間から、ハレルヤのきれいな糸切り歯がのぞく。
 時折り、その白く光る先端を、紅く染まった舌先が横切り、新しい唾液が光る。
「…あっ、…あっ、はぁっ…あっぐ…っ!」
「気持ちいい…?」
 アレルヤの背中は、傷だらけだ。ハレルヤの、人差し指から小指にかけて4本の爪あとが、何重にも走っている。
 でもそれは、アレルヤの爪がつけたあとでもある。血がにじんでいるのは、ハレルヤの背中だ。
 アレルヤが猛ったペニスを押し込むたびに、アレルヤの腰に直接、ぐっ、ぐぷっという音が響いてくる。
 同時に、アレルヤの後ろからも、とろりとした蜜がにじみ出てくる。
「ぼく、なんだかもう、…どっちが自分で、自分がどっちなのか、わからなくなっちゃったよ」
 肉と、肉が、激しく擦り合わされて、でもそのどちらも自分のからだで、相手のからだだ。
 ハレルヤを攻めれば攻めるだけ、アレルヤのからだも責められることになるのだ。
「っ、オレたちはっ、オレたちっだろ…っ、アレル、ヤッ…。んぁっ…、…もっと!!」
 ハレルヤの薄く開いた金色の瞳の端に、涙が盛り上がっているのを発見して、アレルヤは微笑んだ。
「…うん」
 ハレルヤの涙は、とてもきれいだ。誰よりも澄んでいる。そう思う。
 セックスをするときくらいしか、普段は見られないけれど。
 ハレルヤは喉元を激しく反らして、律動ごとに叫んだり口走ったり、衝動をストレートに吐き出してくる。
「…ハレルヤ…、すごい…、そんなに、感じて」
「んぁっ! もっと…! もっ、とっ! ひ…んっ、んっ、く…っ、…も…んっ! …っと…!!」
「ハレルヤ…」
 かわいい、かわいい、ハレルヤ。
「ハレルヤ…ッ、いっぱい、しよう?」
 こみ上げてきた涙を振り払うように、ハレルヤの耳元でアレルヤがささやく。
 声はどこまで届いたか。
 ハレルヤの爪がぎりりと音をたて、いっそう深く食い込んできた。
「ハレルヤが、っ好きなことだけ、しよう?」
「…、ス…? んぁ…!?」
「後ろからは、苦手、でしょう?」
 また、涙がこみ上げてくる。
 嗚咽しそうになるのを必死で抑え、アレルヤはハレルヤの両足をさらに開いて、腰をすすめた。
「…どっちでもっ、イイ…、1回、っ、イカせ、ろって…! も…っ、う…っ!!!」
「うん」
 せわしなく交換し続けている、湿った熱い吐息の境目なんて、とっくに溶けてしまって、ない。
 ハレルヤの両脇の下から、肩甲骨を通って肩をつかんだアレルヤの両手に、ぐっと力がこもった。
 自分に引き寄せ、腰を強く強く、打ちつける。
 充血し、ぷっくりと勃ちあがったお互いの乳首がこすれて、ハレルヤの嬌声が1トーン高くなった。
「ちっ…きしょっ…! あぁっ…!」
「…ハレルヤ…ッ、…ハレルヤ…ッ、…ハレルヤ…ッ」
「あっ…! …イク…ッイ、ク…ッ…!!」
「…、ハレルヤ……ッ」
 ハレルヤの両腕が、窒息するほどにアレルヤの背中をきつく締めつける。
 あれだけ立てていた爪は、指のつけ根から引き攣るようにして浮き、宙で震えた。
「あ……ぐっ…ぅ!!」
 喉の浅いところから、ひっきりなしに気管支を鳴らしていた呼吸が止まり──
 まるで痙攣を起こしたかのように、ハレルヤの背中から首筋が弓なりに反りかえり、大きく跳ねた。
 アレルヤとハレルヤの、隙間なき肌と肌の間に、ハレルヤの熱いものがはじける。
「……っ! あ…、あ…っ、あ……」
 瞬間、絞るように収縮したハレルヤに、アレルヤも歯を食いしばる。
「…ハレッ、ル、ヤ…!」
 突き上げてくる衝動に耐え切れない。
 アレルヤは欲にまかせてハレルヤの再奥までペニスを捩じ込み、さらにその奥に、どくどくと自分を注ぎ込んだ。
「…ッ! ……ッ!!」
 声を閉じ込め、ビクビクと震えるアレルヤの背中に腕をまわしたまま、注がれるものすごい分量に、息をつめたままのハレルヤの口許に笑みがこぼれる。
 半年ぶりだが、からだはその感覚を憶えていた。
 こうして、何度、アレルヤを受け止めてきたか。
 アレルヤは一通りの量を吐き出すと、脱力して、ハレルヤにドッとからだをあずけた。
 ハレルヤの手が、アレルヤの背中から腰へとすべっていく。
 お互い、汗まみれだ。
 気持ちがいい。
「…ぁ、は…ぁ……」
「…す、…げ…お前、の……」
 お互いの耳元で、熱くはげしい呼吸を2、3度し、乾いた喉を潤したくて、唾液を嚥下する。
 下の口は互いのものでぐちゃぐちゃなのに、上の口は、まるで絞りとられたかのようにカラカラだ。
 波打つように上下する胸は、シンクロして、どちらの律動なのかわからなかった。
 呼吸が落ち着かないまま、お互いの唇から溢れ出た唾液を舐めあい、顎にチュッと口づける。
「ぼくも、イッちゃった…」
「…別にっ、いいだろ、いつも、一緒にイけば…っ」
「うん、…うん、そうだね、ハレルヤ…」
 ハレルヤの両脇の下まで腕を抜くと、アレルヤは両手を踏ん張って、こわばったからだを起こした。
 同じ重さのからだ。
 自分の重さに、自分のからだが充分耐えられることくらい、わかっている。
 でも、自分の意識があるときは、必要以上にハレルヤに負担をかけたくない。
 ハレルヤを見下ろす。
 ──きれいだ。
 ハレルヤが吐き出した、1回目の濃い精液を、アレルヤは指にすくいとって、そのまま自分の口へと持っていった。
 舌で、丁寧に舐めとる。
 これは、ハレルヤの、だ──。
 ハレルヤの腹と、自分の胸に飛び散った、狂おしい遺伝子。
 もしも自分が受け止める側だったら、何度でも種付けしてほしいと思うだろう。
「これを洗い流しちゃうなんて、ダメ、だよ……」
 自分の胸元にこびりついたそれも、てのひらですくいとる。
「…アレルヤ」
 愛しくて、夢中で啜っていると、ハレルヤが細い目のまま、見上げてくる。
「いつも思ってんだけどよ…。それ、変な味じゃ、ないのかよ」
「味なんかじゃないんだ…一言じゃ言い表せない…」
「わかんねぇ」
「これはぼくのだよ。一滴も捨てたりなんかしないし、誰にもあげない。ぼくが飲まなきゃだめなんだ」
「……。ふぅん、そっか…」
「…うん…ごめんね…すこし、待ってて。全部、飲ませて…」
 まだ奥深くに、アレルヤは入ったままだ。
 勢いよく射精をした余韻で、アレルヤの意思とは関係なく、張り詰めた亀頭部がときどき跳ねる。
 アレルヤに初めて抱かれたときから、この甘い感触が、ハレルヤは好きだった。
 開放感のあとの、すぅっと冷めていくからだが、なかから暖められる感じ。
 せつなくて、自然と膝が閉じようとする。
「ハレルヤ」
 急に震えたアレルヤの腰に、ハレルヤの太腿がひくついた。
「…くっ…」
「ごめん、ぼくまた大きくなっちゃった」
 申し訳なさそうな、声。
 ハレルヤは、腕をのばしてアレルヤのうなじを絡めとるように、ひきよせた。
「突けよ」
「うん…」
「今日からはもう、お前の好きなだけ、ヤッていいからな」
 すこし掠れた、ハレルヤの静かな声。
 アレルヤは、ハッとしたようにハレルヤの目を見つめた。
「…ハレルヤ…」
「もう大丈夫だ」
「…ハレ───」
「遠慮なんかしないで何回でも抱けよ。マジでヤバイときは殴って止める」
「本当に、ちゃんと殴って止めてね、ぼく、わからなくなっちゃうから」
「安心しろ、手加減しねぇよ」
「うん」
「ほら、そのヒッコミつかなくなったヤツで、好きなだけ突けよ」
「うん…」



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