live
(2) ~R18~
風呂あがり、新しいパジャマを着て、歯をみがくと、アレルヤは戸締りを確認し、先にハレルヤが横になっていたベッドに、からだを横たえた。
全弾を込めた銃を、安全装置がかかっていることを確認してから、ベッドの下にそっと置く。
ハレルヤと自分を守るものだ。この習慣は、どこにいても変わらない。銃をにぎったままで、浅い眠りについた夜も、数知れない。
ハレルヤは、じっと天井の梁をながめていた。
「寒くない?」
アレルヤが声をかけると、ハレルヤの、珍しくすこし怪訝そうな問いが返ってきた。
「アレルヤ、あれ、なんの音だ?」
「? どれ?」
「なんか、低くて気味が悪い音がしてる」
アレルヤがベッドに入ってきても視線を移すことなく、天井を見つめたまま、ハレルヤは耳を澄ましている。
アレルヤは、投げ出されたハレルヤの長い脚の下にある薄手の布団を、ハレルヤと自分の胸元まで引きあげた。
「波の音じゃないかな」
「あれが? ずいぶん待機島とは違うんだな」
地上の待機場所だった南の孤島は、遠浅の、とても粒の細かい砂浜で囲まれていて、静かに寄せてはかえす、子守唄のような波の音がしていた。
残念ながら、住居にしていたコンテナのなかは機械の高周波に溢れていて、外の音はほとんど聞こえず、波の音で眠ることはできなかったが。
「地域が違うと、海も全然違うね」
「そうだな」
「そっか。ハレルヤはこっちの海の音を、初めて聞くんだっけ」
あぁ、という吐息まじりの返事。
アレルヤは微笑むと、ハレルヤにからだを寄せた。
「あったかいね、ハレルヤ」
待機島では、休暇と称して、砂浜でバーベキューをした日もあったが、絶えず、自分の過去や戦況のことで占められてしまう頭では、心底楽しめるわけもなかった。
ここの海では、くつろげるときもあるだろうか。
「すげぇな、夜の海の音って。昼間はそんなに気になんねぇのに」
「うん。音が響くよね」
音と情景は、対だ。
ある程度の年齢まで知らなかった音は、それが何の音なのか脳が判別できず、雑音のように感じることがあるという。
施設で生まれ、ほとんどを宇宙で暮らしていたハレルヤは、知らない音が多いのだ。
「ちゃんと波の音に聞こえてきた?」
「わかんねぇ」
「恐くて寝られないようだったら、窓を防音にするから」
「別にコワかねぇよ…ただ、これからずっと夜中じゅう唸られるのかと思うと、ウンザリするだけだ」
海の近くがいい、と言ったのはハレルヤだが、音のことまではわからなかったのだろう。
「このあたりは雪も降るし、嵐もあるから、いろんな海の音が聞こえるよ」
「だからなんだよ…」
「飽きないでしょ?」
すこしムッとした顔をして、ハレルヤが初めてアレルヤを見た。
アレルヤが笑う。
目を閉じる。
波のよせる音がする。
窓の外を見ようとしても、自分が映るだけで、外の様子は見えない。
でも、海はすぐそこにある。
アレルヤは、ハレルヤの胸に腕をまわし、そっとからだをすりよせた。
「…あまえたいのか?」
「うぅん、なんでもない」
「アレルヤ」
「うん」
「ヤろうぜ?」
「うん」
ハレルヤとふたりで眠っても、充分な広さのベッド。
穏やかに眠ったことなどなかったから、アレルヤは寝具だけは新しく買うことにして、それもこだわって選んだ。
木製にしたのは、ハレルヤとセックスをするとき、耳障りな音がでないと思ったからだ。
「シーツがたりなくなるかも…」
アレルヤは、自分と色違いのハレルヤのパジャマのボタンを1つだけはずし、そこから手をさしいれながら、ハレルヤの首筋にそっと唇をよせた。
「毎日、思う存分、ハレルヤとしたいよ」
「毎日洗濯すりゃいいだろ?」
アレルヤが、のどの奥でくすりと笑う。
「そうなっても、イイかな?」
「オレはかまわねぇけど」
「洗濯ものは、太陽で干そう」
「そうだな。こんだけ風が吹いてりゃ、半日で乾くだろ」
アレルヤは、上半身を起こし、ハレルヤの瞳をじっと見つめると、ゆっくりと唇をかさねた。
舌先をさしいれて、ハレルヤの熱をたしかめる。
初めてキスをしたのは、いつだったろう。
今も同じだ。
キスをするとき、すこし、鼓動が早くなる。
アレルヤは、ハレルヤの首筋を唇でたどり、耳のうしろの匂いをゆっくりと吸い込んだ。
「んー…」
「ん…。ちゃんとそこも洗ったぜ…?」
「そうじゃないよ…。ハレルヤの匂いをかいでるんだ…」
「好きか?」
「うん…すごくいい匂い」
ハレルヤの腕が、アレルヤの背を抱いた。
同じ長さの腕。同じ広さの背中。同じ色の肌。
それでもお互いだけは、それがどちらのものなのか、区別できる。
「ハレルヤ」
「あ?」
「ここから先は、すごくひさしぶりだけど…。大丈夫?」
「……。ああ」
「なにかあったら、ちゃんと言って。絶対だよ?」
「そんな心配しすぎだって」
口のなかで充分に唾液をからませてから、アレルヤは、ハレルヤのまだ締まりきっているところへ、舌をのばした。
そこは、ふっくらとしているが、とてもキツくて、簡単にはアレルヤをとおしてくれない。
「…ん…っ」
唇と舌さきで、ひだを吸い、やわらかく愛撫すると、ハレルヤの膝がふるえた。
「…くすぐってぇよ」
閉じようとする両膝を、アレルヤの手がさえぎる。
「だめだよ、ちゃんと開いてて。ゆっくり、ほぐしてあげるから…」
アレルヤのやさしい愛撫。
熱くやわらかい舌が、何度も何度も、そこをさすってくる。
反射的に、アレルヤの髪をつかんでいたハレルヤの手に、力が入る。
甘い吐息が、ハレルヤの鼻をぬけるのが聞こえた。
舌さきが、ぷつっと音をたてて入り口にもぐりこむ。
「あっ…!」
舌はそれ以上はもぐろうとはせず、またひだを広げるように丁寧になぞった。
「…ん、…んん…、」
もどかしいのか、ハレルヤの腰がゆらゆらと上下に揺れる。
「焦らす、なッ」
「もうすこし」
「…アレルヤ…ッ」
「痛っ…。待って、ハレルヤ。今あげるから…」
アレルヤは再び、舌をとがらせて、唾液とともに、なかに注し入れた。
「…い、……イテテ…」
充分に濡らされて、やわらかくほぐれ、アレルヤの長い舌を根元まで受け入れたハレルヤのからだだったが、さすがに勃ちきったアレルヤのことは、素直には飲み込もうとはしない。
肉の張った先がすこし潜りこむだけで、軋むように悲鳴をあげる。
ズッと音をたてて先にすすむと、ハレルヤのからだが飛びあがった。
「イッ! 痛ぇッ!」
「ひさしぶりだから…」
反射的に逃げようとするハレルヤの腰を、アレルヤが咄嗟に押さえこむ。
「ちから、ぬいて?」
「この…っ、デカチンがぁ!!」
「ひどいハレルヤ。おそろいでしょ」
「入れられてんのはオレだろがぁ…ッ」
「がまんして」
「勝手なこと、言ってんじゃねぇッ!」
「いつも入ってたでしょ、大丈夫、ちゃんと入るから」
う、う、う、と呻きながら、ハレルヤの手がアレルヤの肩を掴む。
どれだけ痛くても、苦しくても、ハレルヤはセックスのときだけは、アレルヤを真正面から受けとめてきた。初めての夜から、ずっとだ。
アレルヤは、ハレルヤを抱きかかえ直すと、ゆっくりと、腰をすすめた。
ハレルヤの腹のなかの、やわらかい粘膜が、まるでなにが入ってきたのかを確認しているかのように、ひとひだずつ、ひとひだずつ、侵入を許し、アレルヤを包み込んでいく。
息を懸命に吐いて、ちからを抜こうとするハレルヤの、苦しげに寄った眉間。
薄く開いた金色の瞳は、ずっとアレルヤのことを見つめている。
「ハレルヤ…ぜんぶ、入ったよ…?」
下腹部が、これ以上ないくらいにいっぱいで、ハレルヤは荒く短く、吐いて吸っての呼吸を繰り返すだけだ。息を吸うたび、のどが引き攣るように動きをとめる。
相当なかが狭いのか、アレルヤの眉間にもしわが縦に走っていた。
「痛ぇ、よ」
「うん、ぼくも」
唇がふれるだけの、キスをする。
「まだ、動くんじゃねぇぞ」
「うん」
唇をついばむように、キスをする。
「ねぇ、ハレルヤ」
「…なんだ?」
「ぼくの、憶えてた?」
「なんだよ」
「ちゃんと答えて」
「ヤダ」
「ハレルヤ」
キスをする。
ハレルヤの舌を誘いだし、やさしく吸いあげる。
「…ん……っん…」
ちゅっと音をたててハレルヤの舌を解放すると、アレルヤはほんのすこし身じろぎをして、だめ押しをするように、ハレルヤに己を意識させた。
「…ひ…っ、動くな!」
「ぼくのカタチ、憶えてた?」
「…っしつけぇッ」
答えなんか、わかっている。
切羽詰まった、ハレルヤの表情。
「……ぼくのだよ」
「…ンなこと、わぁってる…ッ」
「感じる…?」
「…っケツにしか、意識、いってねぇよ…ッ!」
「ぼくも、ハレルヤのなか、すごく感じてる」
まだ、快感ではないけれど。
ハレルヤのなかが、かすかにうごめき始めている。細胞のひとつひとつが、必死になって、突然入ってきたものを感じる準備をしているような感触だ。
「──あったかい…」
「…も、いちいち、うるせぇぞお前…」
「ハレルヤ」
「ンだよ、泣くのかよ」
「違うよ……。ねぇ、動いても、いい?」
「まだだ」
「待てないよ…動きたい」
「ダメだ…っ、あっ! 待て…っ、この…ッ───」
ハレルヤの唇を唇でふさぎ、腰をすこしだけ引き、またもとの場所へと押しいれる。
条件反射的に、ハレルヤの腰が逃げようとするのを、アレルヤの両手が恐いくらいに優しく、ハレルヤの肩から二の腕をさすって止めた。
ハレルヤは、こうして撫でられることに、弱い。
おとなしく、差し出されたアレルヤの舌先を、ハレルヤは吸い始めた。