Love! Eros! Glück!! ~ラブエログリュック!~
(5)
「動物用のほうが最新式の暖房になったけどな。そっちは冬の間ずっとつけっぱなしでいいぞ」
「そうなのか?」
「燃費良いから」
ライルが隣りで吹き出す。
「それから、ヤギの小屋の入口に、ネコ用の小さい扉もつけていい」
「!?」
「自分でできるか?」
ハレルヤは弾かれたようにニールを見上げると、アレルヤを見、それからまたニールへと視線を戻した。
以前、ハレルヤがうっかりネコを家に入れたとき、ニールは見るからに不機嫌になって、それ以来ネコの話はなんとなくご法度になっていた。家に傷をつけるとか、そんなことを気にしているわけでもなく、ライルもハレルヤも理由がわからなかったが、アレルヤだけはわかっていたらしい。あとでこっそりと、冬の間だけならヤギの小屋で面倒をみても良いのではないかと、ニールに相談してくれていたのだった。
「いいのか?」
テリトリーを持つ野良ネコの冬の居場所を心配していたハレルヤは、立ち上がって家の主を驚いたような瞳で見つめた。
「だって、ネコ嫌いなんじゃないのか?」
「別に、嫌いじゃない。昔、飼ってたこともあるんだ。でも、動物は寿命が短いからさ…」
「?」
「犬やネコと家畜は、同じ命でも、やっぱりどうしたって違うからな。替えが効かないだろ」
「……それが理由なのか?」
「まぁな。それだけじゃないが」
子供の頃のことを思い出して、ライルがはっとした顔で兄を見る。飼っていたネコがいなくなってしまったとき、ニールはひどく哀しんでいた。ネコがいなくなるのがどういうことか、すでに兄は知っていたのだろう。
ライルはもう殆ど憶えていなかったが、ニールはハレルヤがネコを肩に乗せていたとき、自分がかわいがっていた、左右の瞳の色が違う美しいネコのことを思い出したに違いなかった。
「この地方は、野犬もいまだにいるんだ。だから玄関にライフルが置いてあるだろ?」
「雪が深くなると、湖のほうから森を抜けて、ヒョウも来るらしいよ」
にっこり笑って口を挟んだアレルヤは、まるで遭ってみたいと言わんばかりの興味深げな表情だ。ニールが銃をかまえる横で、ヒョウをじっと観察するアレルヤのキラキラした瞳が、容易に想像できた。
「このあたりの家は、みんな庭にごちそうが並んでるようなもんだからな」
「知らなかった…。あの口径だから、なにに使うのかと思ってたよ」
「使いたくはないけど、自己防衛は必要だろ。ヒトが襲われることだってあるんだ」
ニールだけではなく、ライルも銃が扱える。
玄関のドアの上と、階段の途中の壁に備え付けられた大きなライフルは、いざというときは兄弟で手にすることになるのだろう。
「ニワトリを食べられないようにな」
「にいさん、もしかしてクリスマスにハレルヤのニワトリを……」
「バカ。そんなわけねぇだろ、ターキーは街で買ってくるから心配すんな」
そういえば、飼い始めてすぐの頃に、ニワトリを庭に放すときは絶対にそばから離れるな、とニールに言われた。ヒヨコが産まれると、ニールは小屋の様子を書斎の窓から良く見ていた。
あれも、そういうことだったのか。
「ニール…」
ハレルヤは、何度も瞬きをして、くるくると表情が変わるニールの目を見つめた。
この家を、自分たちよりも以前からテリトリーにしていた野良ネコも、丸太で作られた丈夫な小屋でなら、安心して冬を越せる。
傷つかないように、ハレルヤが哀しむことがないように、ニールは考えてくれていたのだ。
この家のルールは、正しいのだ。二階に上がるな、というのも、たぶん。
「そろそろお昼にしようか」
アレルヤの穏やかな声に、賛成、と応えて、ニールがアレルヤの額にキスをした。
軽く尖ったニールの口唇が兄の額に触れる瞬間を、ハレルヤは瞬きをできずに見つめていた。