Love! Eros! Glück!! ~ラブエログリュック!~
(2)
庭に出ると、アレルヤが色々と植えて育てている畑の脇を通り抜け、丈夫な丸太材で組み上げた小屋の前で一度立ち止まった。
右の小屋にはヤギが“つがい”で2頭と仔ヤギが2頭、左の小屋にはニワトリが8羽。うち6羽は、ここで産まれた卵から育った。日光に眩しい黄色いヒヨコがチョコチョコと庭に出て、ハレルヤの撒いたエサを夢中でついばむのを、アレルヤとニールも二階から良く見ていたものだ。
「ハレルヤは動物とつきあうのがとても上手だよね」
すっかりオトナになって、可愛いというよりも威厳ある姿になった若いニワトリに腿やおしりを突付かれながら、ライルがエサ箱の掃除を始める。どうしてか、ハレルヤはヤギに頭突きを食らったりしないし、ニワトリに威嚇されたりもしない。近所をうろつく野良ネコも、ライルが近付くとさっと逃げてしまうのに、ハレルヤには体を触らせた。
アレルヤだと、やはりネコは逃げてしまったから、ハレルヤだけ特別なのだろう。
手馴れた動きでニワトリ小屋の掃除をしてしまうと、ネコが入らないようにしっかりと戸を閉めて、向かいのヤギの小屋に入った。
「だいぶおなかが大きくなったねぇ」
「まさか、まだガキが小せぇのにもう子作りするとは思ってなかった」
ここでとりあげられるのか、みんなが心配している。一度、ヤギを譲ってくれたファームの主人に見せるべきだろう。
ハレルヤが汚れた藁をかき出し、新しい寝床を作ってやると、仔ヤギはさっそくそれを前足でかき混ぜた。メェメェと細い鳴き声が耳を擽る。ライルが手を出すと、仔ヤギは小さな口で手ごろな大きさである小指をくわえ、小さく硬い舌でペロペロと表面を舐め取った。ずらりと繋がって見える白い歯も、まだとても薄くて小さい。
「噛まれてもまだ痛くないね」
「まだ乳離れしきれてないからな」
親ヤギの眉間をごりごりと指でかいてやりながら、思わずうっとりと見とれてしまいそうな瞳でハレルヤが見下ろしてきて、ライルは咄嗟に仔ヤギを抱きしめた。
「それって、俺たちが飲んじゃって大丈夫なの?」
「初乳さえ飲ませりゃいいらしいぜ?」
「そうなのか」
そう言いつつ、ハレルヤは親子を一緒にしている。仔ヤギにある程度は乳を飲ませて、残りを搾っているのだろう。
こういう優しさが、人間相手にもわかりやすければ良いのに、とライルは思うが、それはそれで、ハレルヤみたいな綺麗な子には恋人候補が何人も現れそうで、気が気ではなくなりそうだった。
ファームでも若い男のスタッフは何人も見かけた。背の高い青年もいたが、ハレルヤほど都会的で魅力的な青年はいなかった。Tシャツにフードのついたパーカーにカーゴパンツ、安全靴というラフな出で立ちで、とても小さいけれど自分のファームを守っているハレルヤは、このあたりの娘たちの噂の的になるのもそう先のことではないだろう。
ハレルヤに、さっさと告白してしまうべきか? このヤギと自分は、ハレルヤの中で、どちらの地位が上なのだろう。
ライルは仔ヤギを放すと、パンツの裾についた藁を掃いながら立ち上がった。
「今夜は何だろうね」
「なんだ、もう晩メシの話か?」
「うん。ハレルヤの食のメインイベントは午後のお茶だけど、俺は夕食なんだよ」
「知ってんよ」
掃除の最後に、空気を入れ替えるために開けていた小屋の壁に二つある窓を閉め、それを合図にライルも扉の方へと向かった。
窓も扉も、寒さに耐えるために二重だ。窓には木戸もついていて、本格的に雪が積もるようになったら、そこも閉めっぱなしになるだろう。
小屋の扉に鍵をかけると、それをベルトに引っ掛けて、ハレルヤはライルを背後に、畑の脇を通って家へと向かった。
「なんでもいいや。美味けりゃ食う」
「ジャガイモはきっとあるよね」
「あんだろ。ないわけがねぇ」
「そうだよね」
夕食の支度は、アレルヤとニールがイチャイチャとしている姿を後ろから見るのが毎晩の恒例行事だ。ハレルヤの目の毒なのではないかと、ライルは兄とハレルヤ両方が気になって仕方がなかった。
なにしろ、この家でセックスをしていないのは、ハレルヤと自分だけなのだ。そんなことは、誰にも言えないけれど。