Love! Eros! Glück!! ~ラブエログリュック!~
(4)
数日後の早朝、ニールが注文した暖房器具が届いた。
この家の部屋の数と、庭にある小屋を充分に暖められるだけの台数が庭を占領して、ライルとハレルヤは梱包を解く係に任命された。
「すっげぇ旧式…いつの時代のだよ」
中身を見るなり、弟たちは目を丸くした。
「にいさん、これ博物館からもらってきたの?」
「んなワケねぇだろ」
ニールが取り寄せた暖房器具は、オンオフと強弱のツマミしかついていない。重そうに黒々と輝く表面には、“触ると危険”などと書いてあるプレートが打ち付けてある。
近所の農場のほうが、ずっと最新式だ。
キッチンと、ライルとハレルヤの部屋、二階の書斎と寝室、それとバスルームに、広さに合わせたサイズで同じシリーズが揃っていて、アンティークショップが開けそうだった。
「こんなの、よく見つけたなぁ」
「あるとこにはあるんだよ」
暖房一つにもこだわる人間がいるのは理解できるが、まさかニールもそのタイプだとは。なんだかわざわざ面倒ごとを抱え込もうとしているようにさえ、思えてくる。
アレルヤとニールが各部屋にそれらを設置している間、ライルとハレルヤは散らかった梱包剤や包装紙を“かけら”一つ残さないように集めると、庭の隅に運んだ。
「今日の昼メシはコレ燃やして焼きイモかもな」
「いいじゃん、アレルヤが育てたジャガイモは小ぶりだけど美味しいもん」
「ジャガイモならいいけどよ…」
これまでアレルヤとニールが創造した数々の芋料理を思い浮かべていると、キッチンの窓が開き、アレルヤがひょいと顔を出した。
「そっちは片付いた?」
「あぁ」
ハレルヤがからだを傾けて、積みあがったゴミを見せる。
「たくさんあるね」
「焼き芋できるぞ」
以前、ニールがオーブンで焼いただけのサツマイモを、紅茶で無理矢理流し込みながら食べていた二人を思い出し、アレルヤは笑った。
実際のところ、毎食ニールの好物が出ても、二人は文句を言わずに食べてくれる。お茶の時間の菓子を、アレルヤが毎日のように手作りするのは、二人への感謝の思いもあるのだ。
「ご苦労さま。暖房、全部つながったよ。あがっておいでよ」
庭にある水道で手を洗い、靴の泥を落としてからライルとハレルヤが家に戻ると、油で汚れた手袋をニールがはずしているところだった。袖から伸びた真っ白な腕についた茶色い油汚れを、アレルヤが薬剤をつけた布で拭っていた。
廊下にある棚に工具箱をしまうと、ニールは弟たちを部屋に入るように笑顔で促した。
家具から最も離れた部屋の角に、分厚い鉄製の暖房は設置されていた。すでに火は入れられていて、シューッという音が内部から聞こえてくる。
「危ないからな。寝る前にちゃんと消せよ」
マニュアルは、二つに折られた小さな紙一枚だけだ。ニールから渡されたクリスマスカードほどの大きさのそれの、あまりにシンプルな内容に、ライルは声をあげた。
「うわ、これ、タイマーもリモコンもついてないんだ」
「水を入れた鍋を乗せとけ。加湿にもなる」
本格的に雪が降るようになると、家の中は乾燥するだろう。
ニールが執筆業に転職してから、すこし体力が落ちていることを知っている二人は、
「めんどくせぇ」
とこぼしたが、それ以上の反発はしなかった。
寒い季節になると、ニールはときどき乾燥から喉をやられて、そのまま熱を出すことがあるのだ。
優しい弟たちに微笑みかけ、ニールはアレルヤから古くなった鍋を受け取ると、暖房の上に置いた。
「悪いな。おれはこういう暮らしが好きなんだ」
「そりゃぁ、ある程度は知ってたけどね」
兄とはいえ、同い年とはとても思えないニールの好みは、ときどきライルを笑わせる。
「燃費食いそう」
「言っとくけど勝手に改造すんなよ? 危険だからな」
「したくてもできねぇよ、こんな旧式じゃ」
しゃがんで手をかざすと、じんわりと暖かい空気が上がってきて、ハレルヤが眉をぴくりと動かした。今まで感じたことのない種類の熱気だった。
下手をすると火傷をしてしまいそうに熱いが、とても心地良い。
「ニール」
「ん?」
「その…。小屋にも暖房入れてくれて、…ありがとな」
「あぁ」
ハレルヤが礼や謝罪の言葉を口にできるようになってから、まだそんなに経っていない。
照れくさそうに目線を逸らして、最後まで言えたハレルヤの頭を、ニールもライルもぐりぐりと撫でまわした。