transparency
(1) ~*R18~
見えないのに、そこに確かにいる。
生命体として。心臓の鼓動だって感じることができる。
なのに、大好きなその瞳を、その肌を、この目で見ることができないだなんて…。
まさかこんなことになるなんて──。
この家には、部屋は二つしかない。
賑やかな街まで歩いて十分ほどのアパートメントは、こじんまりとした建物で、階段をはさんで各階に二戸ずつしかないため窓が三方向にあるのと、ブロックの角に建っていて新鮮な空気が取り込めるのが気に入って、借りた。
困らない程度の広さのキッチンと、広めのバスルーム(ここにもちいさいが窓があるのが気に入った)、反対側の壁にはダブルサイズのベッド。キッチンとベッドの間に、食事や仕事をするためのテーブル兼デスク。テーブルを引き寄せて、ベッドに腰掛けて甘い朝食をとることもある。
キッチンの脇にある大きな窓からは、かわいらしいベランダに出ることができて、丈夫な種類のハーブや花をプランターで育てている。ときには数ヶ月戻れないから、とにかくほうっておいても勝手に育つ、品種改良された種類だ。
車の通りも、街に近いというのにそれほどない。
肌が触れるのが極自然なこととなった男ふたりが、決められた休みの間だけ住むのには、この家は充分だった。たまに一人になりたいときは、書斎(本当は納戸として使うらしい)へ行く。
そんな部屋で、朝起きたら、ベッドには自分ひとりだった。
明け方までセックスしていたのに、相変わらず元気なヤツだ、と思いつつ二度寝しようとしたが、急に、太腿の間が不快なのが気になって、寝られなくなった。
アイツはゴムを使わない。だから毎回、ロックオンのからだはドロドロに汚れてしまうのだ。
毛布をめくると、見慣れた悲惨な光景があった。いつものことだ。後始末をしてくれることもあるが、夕べはアイツも普段より疲れている様子だったから、そのまま寝てしまったのだろう。
「…あぁもう……シャワー浴びてからもう一度寝るか」
ロックオンは乱れた髪をかきあげると、腰の下に敷いてあるバスタオルで零れ落ちようとする精液を押さえながら、ベッドから降りた。バスタオルを引くとき、なにか重いものが乗っているような摩擦を感じたが、思っていたよりも大量に溜まっているらしいアイツの種がコポリと音をたてて流れ出しそうになり、慌ててバスルームへと走りこんだ。
起きぬけだから、最初はすこしぬるめの湯で洗う。それに、湯を熱くすると、さんざん擦られた箇所に沁みるのだ。
力を抜くといくらでも溢れ出てくる白濁した液体を指でかき出し、一息つくと、髪を洗い始めたロックオンはふと、そういえば、と思いたった。
「アイツ…どこ行ったんだ?」
いつもは、たとえ先に起きたとしても、ロックオンが目を覚ますまでベッドに一緒にいることが多い。額にキスをされたり、そっと後ろから腕をまわされたり、数時間前まで、ロックオンが本当に泣くまで何度も種付けをし、激しく抱いたのと同じ男とは思えないほど、甘い時間をすごす。
今朝は、気付かないうちに出掛けたのだろうか? それとも、書斎で本でも読んでいるのだろうか?
「こんな朝早くにか? ありえねぇよなぁ…」
シャンプーの泡を洗い流し、再び棚に手を伸ばす。
乾くとくるんと毛先が跳ねるあなたの髪にと、いつの間にかバスルームに常備されるようになったトリートメントを、シャンプーのあとに順番を間違えずに使えるようになってから、随分経った。
手のひらに、薄いオレンジ色のクリームを適量とって、容器を棚に戻そうとしたそのとき、視界に鏡が入った。
バスルームの扉が開いている。
「あれ? おれ、閉めて入ったよな?」
「ロックオン…」
「ぇ!?」
聞き慣れた、自分を呼ぶ声に、ロックオンはバスルームの入口を振り返った。