ハンガー (*R18)



 ニールが訓練を終え、シャワーを浴びてロッカールームから出ると、既に人気は疎らになっていた。
 いつもはパイロットスーツは脱いだところでクリーニングに預けるが、今日は違っていた。食事を採りに行く前に、開発部にまた寄らなければならない。
 やれやれと溜息を一つついて、ニールは長い廊下を闊歩すると、まだ灯かりの洩れる一室のドアをノックした。
「よ。今夜はもうアンタだけかい?」
「やだ、あんたまたなの?」
 ニールの左手にあるパイロットスーツを見て、長くカールした睫毛が瞬いた。
 金色に染めた髪を逆立て、派手な服を着て、だが、袖から出た褐色の二の腕には筋肉が隆々と盛り上がっている。背丈がニールよりずっと高いのは、元々背が高い上に厚底のブーツを履いているせいだ。
 支給される作業着を意地でも着ない、戦闘用スーツ専門の仕立て屋、レディ。職人としての腕の評価も高いが、当然、マッチョなオカマと揶揄される。ニールがここに来てすぐの頃は、周囲から手を出されないようにしろなどと冗談を言われたものだが、実際手を出された者は他にはどうやらいないらしく、レディが男好きという噂はそのうち聞かなくなった。
 レディという名称自体、嘘なのだ。組織のスカウトマンが少々乱暴に誘ったらしく、「レディに失礼ね!」と怒ったそのときの彼の言葉から、ここでの呼び名がそうなったと聞いた。彼の浮いたファッションも、組織に馴染まない言葉遣いも、ニールには最初からどうでも良いことだった。
「もう今度は新しく型紙から起こさないと、どうにもなんないわよ!」
 ニールの手からパイロットスーツを受け取ると、レディはメジャーを取り出した。
「やだ、なんか湿ってる」
「そりゃさっきまで着てたからな。キツイのを我慢して」
「またヒップサイズなの?」
「まぁな……。なんでか知らねぇけど」
「理由なんてわかりきったことじゃないの」
 計るから脱いで、と指図され、躊躇うことなくニールはシャツを脱ぐとベルトを外し、ジッパーを下ろす。
「スーツは汗臭いけど、あんたはちゃんとシャワーを浴びてきたのね」
「そりゃあ、〝レディ〟を訪ねるなら常識だろ?」
「ここでアタシにそんなこと言ってくれるの、あんただけよ」
 端末でニールの身体データを引き出すと、スーツに必要な寸法をレディは丁寧に計り、新規に入力し始めた。
 部屋の天井からは、マイスター候補たちのパイロットスーツのプロト版がかかっている。色は様々だ。女性用と思われるラインのスーツもある。一際サイズが小さいものは、民族的に小柄なのか、それとも、もしかしたらまだ子供のものなのかもしれない。テロにあったときのニールの年齢からすれば、子供がいてもおかしくはないのだ。アイルランドよりもっと酷い状況の国はいくらでもあった。
 警戒することなく素肌のまま、派手で自分よりも逞しい男に背中を晒し、ニールはプロト版のスーツを数えた。選ばれるのは、僅かな人数。選ぶのは万能なコンピュータだという。基地内では色恋まで厳しく管理されることはなく、技術者同士で愛を育み、この基地で産まれた子供もいるが、自分の性癖はやはり素行不良ということになるのだろうか。
「ほんと、柔らかくて良い筋肉ね。肌も綺麗。瞳も美しいし、髪はキュートだし。成績も超がつく優等生。なのに、ここの淫乱っぷりはどうなのさ」
 レディはそう言うと、計ったばかりのニールの尻を叩いた。
「アタシの他に何人もいるのはわかってんのよ、男が。こないだなんてハンガーでヤッてたでしょ。角度によっちゃ丸見えだったわ」
「イイだろ別に。ここにいる連中は、みんなビョーキ持ってねぇんだから」
 全員が、基地に入る前に徹底的に調べられ、何種類ものナノマシンを投与されている。技術の最先端の中で暮らしていると、風邪も引かなかった。
「女には手を出してないんでしょうね!?」
「ねぇよ。それより近所のオバサンみたいな叩き方すんな」
「まぁ! ほんとに減らない口ね! 本気で泣かされたい?」
 インナーに手を差し入れ、指先にしっとりとついた体液に、派手なルージュを塗った唇が微笑む。
「相変わらず、名器ね」
「名器ねぇ。本来なら出すだけの場所なのにな」
「そういうこと言わないの!」
 反対の手で鼻をキュッとつままれ、ニールは明るい笑い声を上げた。
 レディとは、何回寝ただろうか。実は結構なサディストで、凶暴な部分を化粧と女言葉で覆い隠していることも、最初から気付いていた。それでも、ニールは彼と何度でも寝た。叱られながらするセックスは、堪らなかった。
 ニールの左手が、レディの服の前を開けた。
「相変わらず脱がしやすい服着てんだな。でもって、こっちも相変わらず」
「何よ?」
「勃ってるぜ? テラ級の大砲」
「それ、褒めてんのかしら? 服は自前よ。人が作ったものなんか着ないわ」
「髪みたいに、こっちは金色にしないのか?」
「一度やったら薬剤が沁みて大変だったのよ! 染める前に色を抜かなきゃならないのが難点ね。今度化学技術部に相談するわ」
 再び、ニールが笑う。
 レディに促されるままに、広い作業台に乗り、インナーもするりと下ろされ。
 一切抵抗せずに素直にうつ伏せになり、顔だけ振り向いて肩越しに自分を見上げるニールに、微笑みながらレディが乗った。
「ちょ、オイル塗ってくれよ…っ!」
 直接ペニスの先端を押し当てられ、初めてニールが逃げ腰になった。
「これだけ濡れてんのに? 我慢しなさい、お仕置きよ」
「何の!」
「アタシだってヒマじゃないのよ。なのにあんたときたら、育ち盛りのティーンでもないのに月に一度はスーツの作り直しじゃないの? 特別料金もらっても良いくらいだわ。だから今頂くの」
「おい、っ、アッ……痛ッ!」
「ほら、入るじゃないの、この」
 震えながら作業台を這い逃げようとするニールの腰を力任せに引いて、レディは一気に、柔らかな肉壺を奥まで突いた。
 左腕で上半身を支え、右手で口を塞いで、ニールは自ら声を抑える。
「ほんと、名器。ここに来ない間は、縫い合わせておきたいくらい」
 舌なめずりをしながら腰を自由に使い始めるレディのペニスを、ニールの身体は勝手に受け入れた。すぐに大量の蜜を分泌し、突かれるたびに、上下左右に掻き回されるたびに、いやらしい音と共にその蜜の飛沫を飛び散らせ、太股まで垂れ流し。
 行為が終わるまで、それは続くのだ。
 肩甲骨が大きく浮き出たニールの背中を、レディの長い舌が舐め上げた。
「今日は、この後は? まだ訓練あんの?」
「も、…寝る、だけ」
「そ、じゃあひさしぶりに、種付け、させてもらうわよ」
 見た目や口調とは裏腹な表現とその行為に、ニールの口の端が不自然に上がった。
 本当にギリギリの大きさでピストンを繰り返す、大きなペニス。
 尻を紅くなるまで叩く、大きく厚い手のひら。
 毎日瞬単位で命のやりとりをしていると、こういうはっきりしたものが欲しくなるのだ。
 他のマイスター候補とも寝ているし、レディに見られていたハンガーでのセックスは、射撃プログラムを担当しているあの男か、それとも、塗装の腕が立つあっちの男か。
 いちいち憶えているほど、関係を持った男の数は少なくない。一度きりのときもあれば、ニールの身体に味を占めて、翌日すぐにニールの部屋を訪ねてきた男もいた。ニールに抱かれたがる男もいたが、『おれはそっちはサービス精神には欠けてるらしくてな』と遠慮なく断ると、態度を翻して襲い掛かってきた男もいる。〝マイスターになるための自分〟を傷つけない程度の暴力なら、ニールは拒まなかった。
 技術だけを買われてここに来た『恵まれた連中』とは、自分は違う。そして、同じように怒りを噛み殺して日々任務をこなしている男たちは、探すまでもなく基地の中にいくらでもいるのだ。互いの素性は隠していても、お仲間は簡単に見つかった。当然だ。勘が鋭いからこそ生き延びて、今ここにいるのだから。
 ニールが寝た男たちは皆、誰かの血の匂いを纏い、気付かれることなくひどく傷つき、自分の家系の遺伝子をニールに植え付けていくのだ。ニールがそれを残せないのを知っていて。ニールをどう抱こうが、自分も世界も何も変わらないことを知っていて。
「出すわよ」
 ショッキングピンクに塗られた長い爪で両乳首を強く捻り上げられ、ニールが我慢できずに鋭い声を上げた。
 身体の奥が、一気に熱いもので満たされる。同時に、突く寸前にタイミングを合わせて叩き続けられた両方の尻から、硬く大きなペニスに擦り上げられ続けた肉壁から、紅く腫れ上がった両胸の先端から、甘く弾けるような強烈ななにかが迸り、一気にニールの脳を支配した。
 大きく身体を震わせて、悲鳴に近い、高く短い声を幾度も咽喉から絞り出し、ニールの身体が跳ね上がった。
「やっぱり、すごくイイわね、あんたって……」
 耳元で囁かれて、反射的に肩が竦む。
 息も整わないうちに、ニールは身体を起こそうと作業台に肘をついたが、汗で滑って力なくへたり込んだ。
 レディとは、まだ繋がったままだった。
「爪で、いじるなって、毎回、言ってんだろ……っ」
「それが悦いんでしょ、あんたは。悪い子だって、オシリを叩かれにアタシのとこに来るんでしょうが」
 バレてたのか、と目を逸らすと、また尻を叩かれた。限界まで広げられたところから、精子がトロリと零れだすのを感じ、ニールのペニスがまた上を向き始める。
「あんたって、ほんと……」
「なんだよ……」
「イイ子ね。こんなとこ来るようなことになる前に、アタシあんたに出遭っていたら良かったわ」
「おれはやだよ、アンタみたいなオカマ」
「ほんと、口が減らないコねぇ。まぁそういうとこも可愛いんだけどさ。あんたがいくらアタシを睨んだって、セックスしてる間は逆効果。わかってんでしょ? まだここもこんなにしこってるわ」
 乳首を指の腹でゆるゆると撫でられると、敏感になったまま熱の引かない身体は、正直にヒクンと跳ねた。
「今日は、もう終わり……。これ以上したら、アンタの大切なデスクがもっと汚れちまう」
「あんたのでならイイのよ汚して。明日スタッフが来る前までに、綺麗にしとくわ」
「おれとヤリまくったところで、世界にケンカ売るための戦闘服作るのって、どんな気分だ?」
「そうねぇ、思い出して最高な気分になるわ、きっと」
「勃起すんなよ?」
 呆れた風にニールが返すと、レディは上品にホホホと笑ってみせた。
「ほら、もう1回脚を開きなさいな。足りないんでしょ? またオシリ叩きながら何度でもイカせてあげるから」
「明日も早朝から訓練なのにか?」
「シャワーは明日の朝浴びればイイわ。今日はもうこのまま、気絶するまでイキッぱなしにしてあげるから」
 このまま尻を叩かれ続けたら、明日は本当にパイロットスーツが入らないだろう。
 だが、レディに爪の先で優しく鈴口をこじ開けられると、ニールは堪らなくなって自分の濡れた口唇を舐め、まだ震えの止まらない脚を大きく開いた。




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マイスター訓練期のニールです。この時期のロックオンがニールであることは明確なので、最初からニールと書いています。


(とある夜[3] ハンガー)


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